SPコード

 視覚障害の人向けに開発されたSPコードというものがある。2次元バーコードの一種で、専用のスキャナーで読み取ると文字をデコードして音声で読上げてくれる。

 視覚障害の人の内、文字を読むことが極めて難しい1級や2級の人は約19万人いるが、点字を読むことが出来る人は1割に満たない。多くの中途失明者にとって点字の読み書きを学ぶことは難しいのだ。また高齢のために失明する人も多く、新たにパソコンなどのスキルを身に付けることも容易ではない。SPコードはそのような人達をターゲットに開発されたものである。

 狙いとしては正しいと思う。OCRの技術が進んだとはいえまだ100%の認識率には至っていないし、点字プリンターも効果で置き場所に困るから、プリンターで簡単に印刷できるコードは点字を読めるユーザーにとってもメリットは大きいはずである。しかし、普及のやり方に問題があると感じる。

 まず、独自に開発したSPコードである。すでに携帯などに使われているQRコードをなぜ採用しなかったのだろう? 既に普及しているコードを利用することによって開発のコストは随分下げられたはずだし、音声読み上げが可能な携帯電話であれば持ち運びが出来るリーダーが出来た可能性も高い。

 これには恐らく日常生活用具給付金制度が問題になっている。この制度は福祉機器の購入を助成する制度で、政府が認めた用具に対して購買の補助金が出る制度である。そのため日常生活用具に認められれば、少額の負担で済むため、高額になりがちな福祉機器を購入する事が出来るようになっている。素晴らしい制度なのだが、問題点も多い。まず、障害者を対象にした製品でなければ認可が下りないことである。介護ベットなどであれば問題ないのだが、情報機器に関しては一般の人でも便利に使える場合があるので、認められない例もあった。SPコードに関してもおそらくその点に対しての配慮から独自のコードを開発するに至ったのだと推察される。

 次にSPコードが標準化されていないことである。QRコードは標準化が進み、規格がオープンになっている。そのため多くの企業が利用しており、それが普及の要因の一つにもなっている。これに対してSPコードはクローズドだ。そのためか対応している読み取り装置は2種類だけである。

 SPコードは自治体の広報や薬の注意書きに使われなど、徐々に普及してきた。しかし、まだ一部の利用に限られている。これはSPコードが付いた印刷物が少ないからなのか? あるいはそれを読み取る装置が普及していないのからなのか? とにもかくにも卵が先か鶏が先かの議論と同じジレンマに陥っている。

 このジレンマを打ち破るために必要なことは、SPコードの利用を自由にすることだろう。少なくとも視覚障害者向けに発売されているOCR装置やソフトがSPコードを理解出来るようにすること。先述したようにOCRは未だに100%の認識率には遠く、段組や挿絵があると認識率は著しく下がる。そこにSPコードが付与されていれば、文字の読み上げは100%可能になるのだ。バーコードの認識プログラム自体はそれ程難しい技術ではないので、メーカー側が対応する際の負担も少ない。携帯電話でも読み取り/読み上げが可能な端末が出来るかもしれない。とにかく少しでもSPコードを読める端末を増やすことが重要だ。

 SPコードを付与した印刷物を増やすことも重要だ。現在SPコードを作るには専用のソフトが必要である。このソフトはMicrosoft社のWordに組み込んで使用するため、その他のソフトで作られたものに対応できない。対応したソフトを増やしていく努力が必要だろう。また規格が公開されれば自社のソフトに組み込んでくれる開発者も居ることだろう。