【講演】学習障害の方に便利なテクノロジーの紹介

 学習障害の方をサポートするNPO法人EDGEが主催する学習支援員の養成講座で講師をしてきました。
テーマは学習障害の方に便利なテクノロジーを紹介です。

 この講座は昨年も実施して大変好評だったので、2時間に増やしてもらいました。
 おかげで、単なるツールの紹介だけではなくて、それらのデモンストレーションをすることもできました。

 アメリカやイギリスでは、学習障害の方に便利なテクノロジーは結構あるのですが、日本では言語的な問題もあるのか、身近で手に入りやすいものがあまりありません。
 学習支援員は、実際に子供たちに接するので、手に入らなかったり使いにくい道具は紹介せずに、日本でも手に入りやすい身近な道具を中心に解説することにしました。

【記事】:【ユニバーサル社会】パソコンや携帯電話など、誰でも使えるように

読売新聞のJIS X8341シリーズに関する記事です。

【ユニバーサル社会】パソコンや携帯電話など、誰でも使えるように

 春に事務機械に関する規格が出て、このシリーズが完結する予定です。今後は国際化や一般への普及が課題ですね。国際化に関しては、パート1の概論がISO化へ。パート3(Web)はWCAG2.0との連携。そして電気通信機器のパート4はITUへとそれぞれ国際化の作業が進められています。

SPコード

 視覚障害の人向けに開発されたSPコードというものがある。2次元バーコードの一種で、専用のスキャナーで読み取ると文字をデコードして音声で読上げてくれる。

 視覚障害の人の内、文字を読むことが極めて難しい1級や2級の人は約19万人いるが、点字を読むことが出来る人は1割に満たない。多くの中途失明者にとって点字の読み書きを学ぶことは難しいのだ。また高齢のために失明する人も多く、新たにパソコンなどのスキルを身に付けることも容易ではない。SPコードはそのような人達をターゲットに開発されたものである。

 狙いとしては正しいと思う。OCRの技術が進んだとはいえまだ100%の認識率には至っていないし、点字プリンターも効果で置き場所に困るから、プリンターで簡単に印刷できるコードは点字を読めるユーザーにとってもメリットは大きいはずである。しかし、普及のやり方に問題があると感じる。

 まず、独自に開発したSPコードである。すでに携帯などに使われているQRコードをなぜ採用しなかったのだろう? 既に普及しているコードを利用することによって開発のコストは随分下げられたはずだし、音声読み上げが可能な携帯電話であれば持ち運びが出来るリーダーが出来た可能性も高い。

 これには恐らく日常生活用具給付金制度が問題になっている。この制度は福祉機器の購入を助成する制度で、政府が認めた用具に対して購買の補助金が出る制度である。そのため日常生活用具に認められれば、少額の負担で済むため、高額になりがちな福祉機器を購入する事が出来るようになっている。素晴らしい制度なのだが、問題点も多い。まず、障害者を対象にした製品でなければ認可が下りないことである。介護ベットなどであれば問題ないのだが、情報機器に関しては一般の人でも便利に使える場合があるので、認められない例もあった。SPコードに関してもおそらくその点に対しての配慮から独自のコードを開発するに至ったのだと推察される。

 次にSPコードが標準化されていないことである。QRコードは標準化が進み、規格がオープンになっている。そのため多くの企業が利用しており、それが普及の要因の一つにもなっている。これに対してSPコードはクローズドだ。そのためか対応している読み取り装置は2種類だけである。

 SPコードは自治体の広報や薬の注意書きに使われなど、徐々に普及してきた。しかし、まだ一部の利用に限られている。これはSPコードが付いた印刷物が少ないからなのか? あるいはそれを読み取る装置が普及していないのからなのか? とにもかくにも卵が先か鶏が先かの議論と同じジレンマに陥っている。

 このジレンマを打ち破るために必要なことは、SPコードの利用を自由にすることだろう。少なくとも視覚障害者向けに発売されているOCR装置やソフトがSPコードを理解出来るようにすること。先述したようにOCRは未だに100%の認識率には遠く、段組や挿絵があると認識率は著しく下がる。そこにSPコードが付与されていれば、文字の読み上げは100%可能になるのだ。バーコードの認識プログラム自体はそれ程難しい技術ではないので、メーカー側が対応する際の負担も少ない。携帯電話でも読み取り/読み上げが可能な端末が出来るかもしれない。とにかく少しでもSPコードを読める端末を増やすことが重要だ。

 SPコードを付与した印刷物を増やすことも重要だ。現在SPコードを作るには専用のソフトが必要である。このソフトはMicrosoft社のWordに組み込んで使用するため、その他のソフトで作られたものに対応できない。対応したソフトを増やしていく努力が必要だろう。また規格が公開されれば自社のソフトに組み込んでくれる開発者も居ることだろう。

ATACカンファレンス2005-2日目

京都の2日目です。今日は雨が降っていてとても寒い朝でした。
http://e-at.org/atac/2005win/index.html

本日のセッションはこんな感じ。

○携帯電話を利用した生活支援
 様々な機能が凝縮された携帯電話をコミュニケーションの手段として使うことに関する提案。ドコモの2画面携帯も紹介され、大きな期待が寄せられていた。

○日本及び米国の障害学生の実態
 日本で障害をもつ学生を積極的に受け入れている広島大学と日本福祉大学、そしてアメリカのワシントン大学で行われている障害学生を受け入れるプログラムの「DO-IT」の紹介。

○より簡単な支援技術へ
 マンチェスター大学のPaul Blenhorm氏の講演。肥大化する支援技術への提言。機能が増えることが必ずしもユーザーのベネフィットにつながらない。今後はシンプルなテクノロジーを提供し、ユーザーが自分必要なものだけを選択することが重要。支援機器だけでなく、一般の機器にも通じる示唆の多い講演でした。

 

 

ATACカンファレンス2005-1日目

 京都で開催されたATACカンファレンスに来ております。ATACとはAssistive Technology & Augmentative Communication の略で、日本語では支援技術と代替コミュニケーションとでも訳せばいいのでしょう。主にコミュニケーションに障害をもつ方のためのテクノロジーに関するカンファレンスです。
http://e-at.org/atac/2005win/index.html

ATACカンファレンス2005

 今年で10回目の記念大会で、私自身は4回目の参加となります。参加されている方は養護学校の先生やリハビリテーションの関係者が多いようです。

 教育やリハビリの現場での実践的な取り組みに関する報告が多く、大変参考になります。また日本で入手できる支援技術に関する製品の展示も行われており、実際の製品を触れることの出来る良い機会です。

 今回参加したセッションはこんな感じ。

○AACやATで役割を生み出すことの大切さに気づく?統合教育や交流教育へのヒント
 現在進められている教育の統合に対しての問題提議。

○総務省の取り組み
 総務省の情報バリアフリーの担当官からの報告

○Show and Tell
 参加者からの告知。一人30秒で自己アピール

○機械で生み出す言葉
 コミュニケーション・シンボルの組み合わせで会話をする支援技術の紹介。海外からの招待講演。

○ITサポーターの素晴らしい実践
 各地で活躍するパソコンボランティアからの実践報告。

○視覚障害疑似体験
 ゴーグルを使って、白濁と視野狭窄の状態を疑似体験。ATACの会場をパートナーとうろうろしていろんな人にぶつかる。過去に何度か体験しているが、やるたびに新しい発見があって新鮮である。

 夜、掛屋剛志くんという13歳の視覚障害の男の子のライブが会場で行われました。うまいピアノだなぁと思って聴いていたけれど、驚いたのはその後に演じたドラムでした。なんとただの段ボール箱を叩いていただけなのに、それが見事なビートを刻んでいるのです。これにはちょっと震えたね。