【読書】わが指のオーケストラ

 「遙かなる甲子園」に続き、山本おさむの「わが指のオーケストラ」を読了。口話主義が台頭する日本の聾教育界の中で、ただ一つ手話を守った大阪市立聾唖学校の校長、高橋潔を主人公にしたマンガです。日本の聾教育の歴史がよく分かります。

 高橋潔の言葉で最も感動した場面は、彼の全国聾唖学校公聴会総会でのスピーチです。

「口話に適する者には口話法にて適しない者には手話法にて」
「ひとりの落ちこぼれもない教育…いわゆる適正教育を最もよしと信じるのであります!!」
第4巻P143より

 他の学校が口話教育に傾く中で、たった1人手話教育の重要性を訴える姿に感動しました。潔の考える適正教育は、いまのインクルージョン教育にも通じるものだと思います。

 しかし世間は口話教育を選び、その結果いまでも聾学校では口話教育が主流で、手話はあまり認められていないままです。口話が出来ると健聴者とのコミュニケーションは円滑になりますが、習得することはとても難しく誰もが身に付けられるものではないそうです。その結果、学校の授業が口話法を身に付けるために割かれてしまい、他の教科の勉強が遅れてしまうという問題があります。

 口話がいいか手話がいいか、答えは一つではありません。その人に適した教育が受けられるようにすることが大事なのだと、改めて感じました。

わが指のオーケストラ (3)
山本 おさむ
秋田書店 (2000/07)
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おすすめ度の平均: 5.0

5 ろう文化の全てがわかる!

【読書】カーニヴァル化する社会

 TBSラジオで月に一度、日曜の深夜に放送されるラジオ番組「Life」。久しぶりに夜更かししても聞きたい番組が登場して嬉しい。朝まで生テレビ!のように毎回テーマを決めて、個性溢れるパーソナリティがトークを交わすのだが、朝生のように過激な内容ではなく、放課後の部室で友達と語り合ったような、ある種の懐かしささえ感じさせるトーンで進行していく。(ただし夜も更けていくとオヤジ発言が増えていく…)

 番組をもっと楽しもうと思い、メインパーソナリティーの鈴木謙介氏の著作「カーニヴァル化する社会」を読んでみた。タイトルから見てカーニヴァル化とはローマの「パンとサーカス」のサーカスにあたるものかと予測して読み始めたが、かなり違うようだ。サーカスが為政者から市民に対して与えられる上意下達的なものであるのに対して、ここでのカーニヴァルとは市民が自ら欲して作り上げていくものだと思う。

 本書の中でカーニヴァル化の具体例として「祭り」を引いている。これは伝統的な祭りではなく、2ちゃんねるなどで起きる突発オフなどの熱狂的な集団行動を指している。この祭りのメカニズムとその背景にある若者の心理を解こうというのが本書の試みである。 その要因とは、社会的なプレッシャーの増大によって鬱になりがちな気分を、祭りによって自らを持ち上げているのだという。これに加えて背景にITの進歩によりスマートモブのようなネットワーク化があるだろう。小さな種火も、ネットワークで増幅されて祭りの規模を以前よりも拡大することになっているのだと思う。

 面白いのはこの後に出てくる「ネタ消費」という概念である。「消費社会」から「記号社会」へと進み、モノそのものの価消費からモノに付随するブランドのような記号的なものを消費する状態へと移行してのだそうだ。日本人がブランドが好きな理由もその辺にあるんでしょう。それが更に進む「ネタ消費社会」になると、話しのネタになる個人的な体験に価値が置かれるため、より個性的な嗜好や体験に重きが置かれるようになるという。

 雑誌連載をまとめたものなので、前半のトピックのバラツキに違和感を覚えたが、最後のネタ消費の話しにつなげていく辺りは見事。番組の終わりにいつも気の利いた言葉で締めくくってくれるのと同じセンスを感じます。 

 

カーニヴァル化する社会
カーニヴァル化する社会

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鈴木 謙介
講談社 (2005/05/19)
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5 毎日をカーニバルにしたい。
5 今後の著作に期待
5 監視社会

【読書】貧困の克服―アジア発展の鍵は何か

 貧困の問題に関連してアマルティア・センを読み始めた。 ノーベル経済学賞の受賞者なので、著作はもちろん経済学に関するものだが、貧困や福祉に関しても多くの著述がある。この新書は講演の記録をまとめたもので、彼の考えている「人間の安全保障」などの概念を解説している。

貧困の克服―アジア発展の鍵は何か
アマルティア セン Amartya Sen 大石 りら
集英社 (2002/01)
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5 非常に分かりやすい
5 世界で最も重要な問題
4 人間の潜在的能力の発揮による経済発展をめざす

【読書】アジア・アフリカの障害者とエンパワメント

 原著は1993年に出版されたが、今読んでも古さを感じさせない。それは途上国の障害者の状況が一向に改善されていないからだろう。本書の中で取り上げられている国、例えばインドのようにその後大きく経済成長を遂げた国であっても、障害者は貧困と差別にあえいでいる。

 途上国において、障害者問題の最も大きな関心は「貧困」だ。身体的な障害と根強い差別のために働くこともままならない。

 学生時代に参加した、留学生との交流会。その日は少しまじめに、世界の解決すべき問題は何か?という話題について話していた。日本人が環境問題や国際協調など、思い思いの課題を話すのに対して、留学生の多くが「Poverty」と答えていた。

 その時に感じたのは違和感は、私がまだ保護されている学生の身分だったからなのか、あるいは日本に住んでいるからなのかは、いまだに分からない。しかし、それから世界の貧困について意識するようになったと思う。(でもホワイトバンドはしないよ)

 障害者支援技術は、確かに障害者のADL(日常生活動作)を向上させることが出来るだろう。しかし、それと同時にかれらのQOL(生活の質)を向上させるだろうか? 貧困と差別の前で技術は何が出来るだろうか? この本はそんな事を考えさせてくれた。

アジア・アフリカの障害者とエンパワメント
ピーター コーリッジ Peter Coleridge 中西 由起子
明石書店 (1999/07)
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【読書】定性データ分析入門

 ユーザーの行動からニーズや問題点を見つけ出すために、フィールドノートを作成して定性調査を行うことがある。人類学の専門家のように何ヶ月も(時には何年も)調査を続けるようなことはないけれど、それでも集まる資料は会話を書き起こした文章以外も写真やビデオなど、結構な量になる。

 じっくりと時間をかけて、それらの資料を吟味する時間はとれないので早い段階からソフト的に処理できないかと考えていた。フィールドワークの入門書として手に取った佐藤氏の本にも、資料に関する同様の問題が記述されていたこともあって、整理法に興味を持つようになったのがきっかけだ。

 「フィールドワーク」の中で分析ツールとして紹介されていたのは、ShareWareの「IdeaTree」だった。まずはこのソフトを使うことからはじめた。一時期PDAのシグマリオン2を使っていたのだが、IdeaTreeにはPC用と互換性のあるWindowsCEで動作するバージョンがあり、外出先で記録したノートをPCで再編集するなど、便利に使っていた。

 その後、もっと自由度が高いソフトを探しているうちに発見したのが「IdeaFragment2」だ。こちらはKJ法のようにカードを並べて一覧にすることが出来るので、より自由な発想ができる。残念ながら開発を終了してしまったのだが、十分な完成度なので今でもお勧めのソフトの1つである。

 最近発刊になった「定性データ分析入門」では、QDA(Qualtative Data Analysis)ソフトと呼ばれる質的データを解析するための専用ソフトが3種紹介されている。日本では殆ど知られていないQDAソフトを紹介するという点で、本書は十分価値があるがそれ以上に素晴らしい点は、ソフトで解析する元になるデータの扱いについて慎重に取り扱っている点だ。

 定量調査に比べて定性調査は、ともすれば科学的な研究とは見なされない場合が多い。私の関わる分野として特に大きいのは障害に関わる領域のフィールド調査では、同じレベルの障害を持っていても、その他の条件が全く異なっている場合が多く、定量的な比較など出来ない事がほとんどだ。そのため調査は必然的に定性調査になる。社会科学の分野では問題なく受け入れられる手法だが、工学の分野では未だに受け入れられにくいのが現状だ。その現状を乗り越えていくためにも、よりよい報告書を作っていく必要がある。

 

定性データ分析入門―QDAソフトウェア・マニュアル
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フィールドワーク―書を持って街へ出よう
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